在職老齢年金の見直しと経営者の年金の盲点
2021年より、在職老齢年金制度は廃止となる見込みであり、これにより役員報酬を抑えなくても、年金は満額受給が可能となる予定でした。 しかし、財源の面で暗礁に乗り上げ、制度の見直しはさらに見直されることになりました。 経営者など高所得者層にとっては年金カットをされた上に掛金は負担しなくてはならないという理不尽な制度。 しかし制度を廃止する場合、年金の総支給額は増やせないため、現在の受給者の給付額を減らさざるを得ないことになります。 その点が「金持ち優遇」と批判されているようです。 今後は廃止はできないとしても年金をカットする基準額を上げて受給できる人を増やす方向で見直されるもよう。 今回は、在職老齢年金制度について知っておくべきことと、注意点についてお伝えします。

在職老齢年金とは?

在職老齢年金制度とは、働きながら年金を受け取る人が報酬に応じて年金額がカットされる制度です。 この在職老齢年金制度は、報酬の金額によって年金の支給停止額が変動します。 ちなみに、「ねんきん定期便」に記されている額は、老後に働かない人が受け取る年金見込み額です。 現役で働き続ける人が在職老齢年金制度のもとでカットされる部分は反映されていません。 そのため、現役で働き続ける人にとっては参考にならないどころか誤解を招くもとになってしまっています。

支給停止と繰り下げは違います!

経営者に限らず、年金制度に関しては誤解が多く、気付いた時には後の祭りになることがたくさんあります。 その最たるものが「年金の支給停止」と「繰り下げ」の混同です。 国民年金にも厚生年金にも「繰り下げ」という制度があります。 老齢年金は、原則、65歳から受給できますが、受給開始を繰り上げたり、繰り下げたりすることができます。 繰り下げの場合、受給開始を70歳まで遅らせることができます。 「繰り下げた月数×0.7%」が増額され、一生涯続きます。 例えば、70歳から受給を開始する場合、65歳から受給できる年金の142%になります。 老齢厚生年金と老齢基礎年金は別々に繰り下げることができます。 これに対し、在職老齢年金制度によって年金をカットされた「支給停止」は繰り下げとは違います。 今現在支給停止になっている年金自体を後からもらうということは、絶対にできません。 役員報酬が多くて年金がカットされても、カットされた年金を後から受け取ることはできないのです。

在職老齢年金で支給停止になった年金部分は繰り下げても増額されない。

人生100年時代の資金の枯渇を防ぐ手段として年金の繰り下げは有効な手段です。 長く現役で働く経営者にはぜひ活用していただきたいもの。 ですが、先ほどの支給停止に関連して注意点があります。 それは、繰り下げた年金に支給停止分があった場合、その部分は繰り下げても増額にはならないということです。 年金を繰り下げると、通常は役員報酬を生活費にしようと考えます。 そこで、役員報酬を増やすと支給停止になる可能性があります。 65歳以上の人の場合、老齢厚生年金の月額と総報酬月額相当額の合計額のうち47万円(令和1年度)を超えた額の半額が支給停止になります。 例えば、仮に基本月額を15万円、総報酬月額相当額を45万円とすると、合計60万円のうち、47万円を超えた13万円の2分の1の 6.5万円が支給停止され、在職老齢年金は8.5万円の支給になります。 このしくみにより、カットされた後の年金額、つまり、上記の例では8.5万円は、繰り下げによる増額の対象となりますが、支給停止の部分(上記の例では6.5万円)は増額の対象にはなりません。

最適な報酬額を考えたい

仮に年金と役員報酬の合計がカットにならない金額では生活できないという場合は、65歳から70歳までの生活費を準備しておく必要があります。 つみたてNISAや若い方なら確定拠出年金などの活用も考えたいものです。 それとともに会社と個人のマネープランを行き当たりばったりでなく、計画的にやっていくことが大切になります。 特に役員報酬最適化は年金が関係しなくても大切ですが、特に慎重に考えていただきたいです。 寝食を忘れて事業をがんばった後に「こんなはずではなかった!」と後悔することがないように注意しましょう。


ファイナンシャルプランナー 松田 聡子
この記事を書いた人
松田聡子

【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種


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