事業承継で見落としがちな最優先事項とは?
最近、お世話になっている会社が相次いで代替わりしています。 経営者が高齢化してくると取引先も先行きが不安になってきます。 ですから、適切な時期に後継者に経営をバトンタッチできれば安心してもらえますね。 ところで、事業承継とは最終的にどんな状態をいうのでしょうか? 後継者が役職を引き継げばいいのでしょうか? 違いますよね。 会社を最終的に支配するのは社長ではなく、株主です。 自社株がバラバラになっていては安定した経営は不可能です。 それなのに、後継者に自社株を集中させることに無頓着な経営者が意外に多いのです。 今回は自社株を後継者にまとめて譲る重要性についてお伝えします。

後継者が最低限必要な自社株の保有割合は?

株式は経営権です。 同族会社の経営を安定させるには、経営者の株式の保有割合を多くする必要があります。 では、どの程度の株式を保有したらいいのでしょうか? 結論から言うと、経営者単独で2/3以上保有することが望ましいです。 株式を2/3以上保有すると株主総会の特別決議を単独で成立させられます。 特別決議による主な事項は以下の通りです。
  • 株式併合
  • 募集株式の事項の決定
  • 監査役の解任
  • 資本金の額の減少
  • 定款の変更
  • 自己株式の取得
  • 相続人への売渡請求
  • 事業の全部(もしくは重要な一部)の譲渡、譲受、賃貸
  • 解散
  • その他合併・会社分割、株式交換、株式移転
つまり、経営に関するほぼ全てを決めることができるというわけです。 よく、過半数の保有でいいと考える経営者がいますが、それは違います。 例えば、持ち分1/2ずつの株主が2人いた場合、相手の言うことをお互い否決はできるがどちらも単独で決定できないという状況になってしまいます。

株式分散のリスクとは?

では、株式が分散すると、後継者はどのようなリスクにさらされるのでしょうか?

会社の意思決定が難しくなるリスク

株主には株数に応じた支配権や拒否権があります。 後継者に十分な保有割合がないと方針決定や役員選任などの事業における重要な意思決定が困難になる恐れがあります。 分散された相手が敵対関係にある人や、無関係な第三者等の場合はリスクが高まります。

会社の経営権を買収されるリスク

株式が分散されると、後継者の持ち分以外を買収されるリスクにさらされます。 仮に買収されれば、後継者が事業を続けられるかは分かりません。 後継者が経営権を失うと社員の雇用も維持されるとは限らず、社員を不安定な状態にしてしまうことになります。

株主代表訴訟を起こされるリスク

第三者が株式を保有する場合、その理由はさまざまです。 最悪の場合、株主代表訴訟を起こす可能性もあります。 株主代表訴訟を起こされれば事業の存続が危うくなります。 このように、株式の分散は同族会社の経営の安定にはマイナスになります。 保有しているのは親族だけだからなどと安易に考えず、後継者に株式を集中させることを考えましょう。

円滑な事業承継のために

円滑な事業承継を阻む要素に相続の問題があります。 相続には
  1. 遺産分割
  2. 相続税
について考える必要があります。 そしてこれらの対策のために株式が分散されるリスクがあることを認識しなくてはなりません。 具体的には 後継者である長男に自社株全部を譲ろうとしたが、他に相続財産がないため分割せざるを得ない。 とか、 自社株の評価が高くて相続税が払えないため、親族間で分割する。 などの場合です。 しかし、優先すべきは後継者に株式を集中させることです。 税金対策などで経営権を失っては本末転倒です。 分割対策のためには後継者以外の子どもとの不公平をなくすため、金銭を準備するようにしましょう。 相続税の納税準備も必要です。 また、既に分散している株式は多少お金がかかっても買い戻すようにしたほうがいいです。   もう、おわかりですね。 ものをいうのはお金です。 事業承継のために日ごろから経営者が資産を作っていたほうがいいことがわかります。 また、多額の退職金を受け取るのも自社株評価を下げる効果もあり、一石二鳥です。 いずれにしても準備には時間がかかります。 できるだけ早く取り組まれることをお勧めします。

ファイナンシャルプランナー 松田 聡子  
この記事を書いた人
松田聡子

【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種


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