中小企業が確定給付企業年金から移行するベストな制度は確定拠出年金
長引く超低金利の影響で、確定給付型企業年金(DB)は厳しい運用状況が続いています。導入企業の中には追加の掛金拠出が必要となるケースも多く、収益や財務へのダメージが懸念されます。対策として考えられるのは、DBから他の制度への移行です。 この記事では、中小企業がDBから移行できる企業年金や退職金制度を紹介し、現実的な選択肢は何かを解説します。

確定給付型企業年金(DB)とは?

確定給付型企業年金(DB)とは、加入者である従業員が受け取る年金額があらかじめ約束されている企業年金制度です。加入者の年金受給権は強固であり、運用の結果は事業主の責任として不足分があれば穴埋めしなければなりません。 DBには「規約型」と「基金型」があります。「規約型」とは、事業主が規約にもとづいて掛金を拠出し、生命保険会社・信託会社などが年金資産を管理・運用し、年金給付を行う方式です。現在、中小企業で導入されているDBの多くは規約型です。

確定給付型企業年金のメリット

事業主はDBの制度を利用することで掛金を損金算入しながら退職金を計画的に積立てられます。 加入者としては事業主が拠出した掛金は外部に保管されることとなり、業績不振などの場合でも年金資産は守られます。さらに運用指図も必要ない、メリットの大きな制度といえます。

確定給付型企業年金の問題点

昨今の超低金利はDBの運用に負の影響を及ぼしています。

相次ぐ運用利回りの引き下げ

2022年(令和4年)の4月、日本生命が確定給付型企業年金の運用利回りを従来の1.25%から0.50%へ引き下げると発表しました。運用利回りの低下はどの金融機関もほぼ同じ状況であり、DBを導入する企業全体の問題です。 大幅な運用利回りの引き下げは、積立不足に陥る可能性が高まります。そのための追加の事業主拠出は避けられず、収支にも財務にも大きなダメージを与えると考えられます。

積立て不足による財務への悪影響も

国債の発行残高などを考慮すると金利上昇は考えにくく、このままDBを継続するのは困難であると考えざるをえません。加入者にとってメリットのあるDBですが、そのために事業主の負担が過大になれば給与が十分に支払えなくなるかもしれません。 現実的にDBを継続できる中小企業には相当強固な財務基盤が求められます。そこで、より持続可能な企業年金・退職金制度への移行を検討する事業主が増えているのです。

確定給付型企業年金から移行できる企業年金・退職金制度

DBから移行できる企業年金や退職金制度は複数あります。以前はDBの前身である適格企業年金からの移管先として厚生年金基金がありました。しかし解散に至る基金も多く、現実的にDBから移管できるのは次のような制度です。

確定給付企業年金(キャッシュバランスプラン)

キャッシュバランスプランは制度上DBに分類される、DBと企業型確定拠出年金(DC)の特色を併せ持つ企業年金です。DCとの共通点は、勘定が加入者ごとに管理される点です。将来の給付額は長期金利などに連動する設計となっており、積立て不足の発生リスクを軽減できる仕組みです。

リスク分担型企業年金

リスク分担型企業年金はキャッシュバランスプランと同じくDBに分類される企業年金です。あらかじめ決められた給付額に応じた掛金額を設定する点は、通常のDBと同じです。 リスク分担型企業年金では将来の積立て不足発生に備えて事前に多めの掛金を拠出できます。多めの掛金を拠出できるため、ある程度運用実績が悪化しても追加拠出が発生しないというわけです。 想定を上回る運用成績の悪化があった場合は、積立て不足に応じて給付額が減額されます。つまり、積立て不足の発生リスクを事業主と従業員で分担し合う仕組みです。

企業型確定拠出年金(DC

企業型確定拠出年金(DC)は事業主が掛金を拠出し、従業員が自分で運用をした結果に応じて将来の年金給付額が決まる仕組みの企業年金です。事業主は決まった掛金を拠出すればよく、積立て不足による追加拠出のような義務はありません。 従業員は運用指図をしなければならず、将来の受取額が保障されていない点をマイナスと捉える人もいます。しかし、DBで想定していた利回り以上で運用できる可能性もあります。また、年金資産は個別に管理されるため、加入者固有の不可侵の財産です。 一般的にDBは大企業向けの企業年金であるのに対し、DCは中小企業でも導入しやすい制度です。将来にわたって安定的に企業年金や退職金制度を運営していくには、現実的な選択肢といえるでしょう。

中小企業退職金共済

中小企業退職金共済(中退共)は、中小企業のための公的な退職金制度です。従業員数や資本金などの要件を満たす中小企業が加入でき、事業主が掛金を負担しその他の実務は中退共本部が行います。また、掛金の一部には国の助成もあります。 給付の際には従業員自らが中退共に請求手続きを行います。中退共は事業主に掛金以外のコストがなく、事務的な手間もほとんどないため、中小企業でも導入しやすい退職金制度です。

確定給付年金から確定拠出年金への移行がおすすめの理由

DBを導入していた中小企業が他の制度へ移行する場合のベストな選択肢は企業型DCです。ここでは、その理由を解説します。

事業主に追加の拠出が発生しない

現状の運用状況でDBを継続すると、事業主に追加の掛金負担が生じる可能性が高くなります。企業型DCに制度を移管すれば追加の掛金負担からは解放され、安定的な経営が可能になります。

インフレリスクに対応可能

現状の企業年金および退職金制度でインフレリスクに対応できるのは、企業型DCのみです。遠い将来のための退職金や企業年金にはインフレリスクへの対応が欠かせません。しかし、超低金利の現状においてDBや中退共では、資産を増やせません。 資源が乏しく食糧自給率も低い日本では今後のインフレリスクが懸念され、運用による資産防衛が必要です。企業型DCの運用は加入者の自己責任ですが、自分の資産を守ることが可能な仕組みです。

ポータビリティがあるため、他社の有力人材の確保が見込める

企業型DCの資産は、制度のある企業に移管できます。企業型DCのある会社に勤務していた人の転職先にも制度があれば、年金資産の移管が可能です。転職先でも老後資金の積立てを続けられるため、有力人材へのアピールにつながります。

役員も加入できる

中退共は従業員しか加入できませんが、企業型DCは役員も加入できます。社長一人の小規模な会社でも導入し、掛金を損金計上しながら老後資金準備が可能です。

確定給付年金の移行は制度に精通した専門家に相談しましょう

中小企業がDBを他の制度に移管する場合、現実的な選択肢としては企業型DCが最善策といえます。しかし、移行にあたってはさまざまな手続きが必要であり、詳細な検討も必要です。DBの継続が難しい場合、他の制度への移行を先延ばしにすると一層会社のダメージが大きくなることも考えられます。 早めに専門家に相談し、自社にあった制度に切替えましょう。群馬FP事務所では制度に精通した専門家と連携して、中小企業の企業型DC導入のサポートを行っています。詳しくは当事務所の「確定拠出年金(401K)導入コンサルティング」をご覧ください。 以下の関連記事もご一読ください。
この記事を書いた人
松田聡子

【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種


群馬FP事務所では、中小企業経営者・自営業・フリーランスのライフプラン、資産運用、相続事業承継、保険見直し、確定拠出年金導入などの相談をお受けしております。
ZOOMにて日本全国対応可能です。対面コンサルティングも承っております。詳細はお問い合わせください。
執筆のご依頼も随時受け付けております。
TEL:027-368-0020 Email:info@gunmaf.net