ドル建て養老保険は中小企業の退職金に向かない?ベストな制度も紹介
養老保険の福利厚生プランは保険料の半分を損金に算入できるため、多くの中小企業の従業員の退職金準備に活用されています。最近では超低金利で貯蓄性が落ちたため、米ドルなど外貨建ての養老保険を導入するケースが増えました。 外貨建ての養老保険は円建てより利率が高い反面、デメリットもあります。この記事では福利厚生プランの基本や外貨建て養老保険の注意点、中小企業向けの退職金制度について解説します。

養老保険の福利厚生プランとは?

養老保険とは、保険期間中に被保険者が亡くなると死亡保険金が支払われ、満期まで生存していると満期保険金が支払われる生命保険です。途中で解約すると、期間の経過に応じた解約返戻金が契約者に支払われます。法人が養老保険を契約すると、保険料の全額を資産計上するルールとなっています。 しかし、退職金準備のために一定の条件を満たした場合、保険料の半分の損金算入が可能です。このような法人契約の養老保険を福利厚生プラン(ハーフタックスプラン)といいます。

保険料が半分損金になる条件とは?

法人契約の養老保険が、福利厚生プランとして半分損金が認められるための条件を解説します。

保険の契約形態

福利厚生プランとして認められるための養老保険の契約形態は以下のとおりです。
  • 契約者:法人
  • 被保険者:従業員または役員
  • 死亡保険金受取人:被保険者の遺族
  • 満期保険金受取人:法人
死亡保険金の受取人が被保険者の遺族となっているため、従業員が死亡すると保険金は遺族に直接支払われます。満期保険金は会社が受け取り、退職金規程に従って満期保険金の一部または全部から退職金を支払います。

全員加入が条件

福利厚生が目的のため、原則として従業員全員を加入させる必要があります。特定の従業員だけの加入では、福利厚生プランとして認められません。ただし、「勤続年数3年以上」のような客観的な基準を設けるのは認められています。また、役員も福利厚生プランに加入できます。

規程を作成する

福利厚生プランが対外的に認められるために、「福利厚生規程」「退職金規程」のような規程を整備する必要があります。これらの規程は保険契約が福利厚生プランであることの裏付けとなります。 また、養老保険の死亡退職金が会社からの死亡退職金である旨を規程に明示しておくと、遺族とのトラブル防止につながります。保険金は保険会社から支払われるため、遺族が別途退職金を請求する可能性があるからです。

福利厚生プランは外貨建て養老でもOK

昨今の運用状況から、養老保険は満期まで継続しても満期保険金が支払った保険料を下回るケースもあります。半分損金のメリットはあっても、お金が増えないために導入を見送る企業も少なくありません。そこで、米ドルなど日本円より高金利の外貨建て養老保険を選ぶ会社が増えています。 外貨建て養老保険は、満期保険金や解約返戻金の返戻率が円建てより高めです。また、同程度の死亡保険金に対する保険料は円建てより低めです。福利厚生プランの要件を満たしていれば、円建てでなくても半分損金算入は認められます。

福利厚生プランのメリット

養老保険で退職金を積立てる福利厚生プランのメリットを解説します。

保険料の半分が損金算入できる

法人契約の養老保険の保険料は全額資産計上が原則ですが、福利厚生プランであれば半分が損金参入可能です。 たとえば、1人あたり毎月1万円の保険料を支払うと1年間なら12万円で、そのうち6万円が損金算入できます。加入対象の従業員が10人ならば60万円を損金算入でき、その分の税負担を軽減できるというわけです。定期預金などで準備する場合に比べて、手元に資金が残ります。

満期保険金や解約返戻金が退職金の財源になる

従業員が退職するときに、会社は養老保険の満期保険金または解約返戻金を受け取ります。受け取った金額から資産計上分を差し引いた金額が益金に算入されます(金額によっては損失になる場合もあり)。会社は退職金規程などに則り、満期保険金(解約返戻金)の一部または全部を退職金に充当可能です。 同時期に複数の退職者がいる場合などでは、退職金支給に多額の資金が必要な可能性もあります。従業員の退職に向けて養老保険に加入すれば、必要資金を無理なく準備できます。

遺族が死亡保険金を受け取れる

福利厚生プランの養老保険の死亡保険金は、遺族に支払われます。通常、中小企業退職金共済や企業型確定拠出年金で加入者が死亡した場合にも遺族にお金が支払われます。しかし、支払われる金額は死亡日現在の積立額がベースとなります。 福利厚生プランなら加入してすぐに無くなったとしても、死亡保険金が全額受け取れるのです。

緊急時には事業資金に充てられる

福利厚生プランは法人が契約者となるため、解約返戻金などは法人の財産です。通常であれば従業員の退職金財源ですが、やむを得ない事情がある場合には解約して事業資金に充てられます。 また、解約しなくても契約者貸付けの利用も可能です。これに対し、中小企業退職金共済や企業型確定拠出年金の掛け金は一旦拠出すると戻ってきません。このように、会社の裁量が及ぶ点は福利厚生プランのメリットです。

外貨建て養老の福利厚生プランのメリット

福利厚生プランに外貨建て養老保険を利用するメリットを確認しておきましょう。

円建てよりパフォーマンスがよい

米ドルなどの外貨建て養老保険は円建てより高金利で運用されており、同じ水準の保険料でも多くの満期返戻金や解約返戻金が受け取れます。 最近の円建ての養老保険では、途中でやめたときの解約返戻金が支払った保険料を下回るケースがほとんどです。また、満期保険金が支払保険料より少ないケースもたくさんあります。そのため、為替変動リスクはあっても外貨建て養老保険を選ぶケースが増えているのです。

福利厚生プランのデメリット

福利厚生プランには税制メリットがありますが、注意すべき点もあります。

高齢の従業員の保険料が高額

養老保険の保険料は、被保険者の年齢とともに高額になります。中途入社の社員などを加入させる場合、保険料が高額になることに注意が必要です。また、被保険者の年齢が上がるに従い、満期保険金や解約返戻金の返戻率も下がります。

健康状態によっては加入できない可能性がある

養老保険は生命保険の一種なので、健康状態によっては加入できない可能性もあります。加入できない従業員の退職金や死亡保障は、別途準備しなければなりません。

短期間で退職すると損をすることも

養老保険に加入した従業員が短期間で退職した場合、解約返戻金が支払った保険料を大きく下回るおそれがあります。従業員が退職したときは、速やかに養老保険を解約しなければなりません。従業員の入れ替わりの多い会社には、福利厚生プランは適さないでしょう。

保険料の半分しか損金算入できない

福利厚生プランでは養老保険の保険料の半分が損金に算入できます。しかし、中小企業退職金共済や企業型確定拠出年金の掛け金は、全額損金算入が可能です。退職金は長期にわたって準備するため、全額損金と半額損金によって生じる税額軽減の差は小さくないでしょう。

外貨建て養老の福利厚生プランのデメリット

外貨建て養老保険のデメリットを押さえておきましょう。

為替変動によって保険料が高額になる可能性がある

外貨建て養老保険の保険料は外貨建てのため、毎月円で支払う金額が変動します。為替が円安に振れると保険料が上がり、会社の負担が大きくなります。 たとえば、毎月の保険料が100米ドルだとすると1米ドルが100円なら1万円ですが、130円ならば13,000円になります。円安傾向が続く場合にも支払える保険料かをよく検討してから加入しましょう。

為替変動によって受け取る保険金や返戻金が少なくなる場合もある

外貨建て養老保険では、保険金や返戻金の受取時にも為替変動の影響を受けます。受取時は円安が望ましいのですが、極端な円高になっていた場合には円での受取額が元本割れするようなケースも考えられます。その場合、外貨のまま受け取り、レートが良くなってから円に替えることも可能です。

外貨建て養老保険から他の退職金制度に変更したくなったら

福利厚生プランの外貨建て養老保険をやめる方法には、「解約」と「払い済み」2つがあります。解約すると保障がなくなり、期間の経過に応じた解約返戻金を会社が受け取ります。一方、払い済みは保険料の払い込みをストップしますが、保障は払い込んだ保険料に応じた死亡保険金額・満期保険金額で継続します。 解約すると経理処理が必要ですが、払い済みでは必要ありません。払い済みができる条件は保険会社ごとに異なりますが、特に資金が必要でなければ解約よりも得策といえます。

解約の場合の経理処理

資産計上額(保険料積立金)300万円、解約返戻金500万円の場合の仕訳は以下のようになります。
借方 貸方
現金・預金 500万円 保険料積立金 300万円 雑収入 200万円
保険料積立金を取り崩し、解約返戻金と保険料積立金の差額を雑収入または雑損失として益金または損金算入します。

福利厚生プラン以外の中小企業向け退職金制度

福利厚生プランは、中小企業が採用しやすい退職金準備の方法です。しかし、退職金準備には他の方法もあるため、それらを比較して自社にあった方法を選びましょう。

企業型確定拠出年金(DC

企業型確定拠出年金(DC)は事業主が拠出した掛け金を従業員が自分で運用し、その成果によって将来の受取額が決まる企業年金です。事業主は毎月一定の掛け金を拠出すればよく、拠出した掛け金は全額損金算入できます。つまり、為替変動によって掛け金が増えるようなことはありません。 一方、従業員は運用に失敗すると元本割れを起こすリスクがあります。しかし、運用が上手くいけば資産を大きく増やすこともできます。

中小企業退職金共済

中小企業退職金共済(中退共)は、一定の規模以下の中小企業のための公的な退職金制度です。事業主が掛け金を支払い、掛け金の一部には国の助成もあります。給付の際には、退職する従業員自らが請求手続きを行います。 中退共は事業主に掛け金以外のコストがなく、事務的な手間もほとんどないため、多くの中小企業で導入されています。

中小企業に確定拠出年金がおすすめの理由

以上を踏まえて、中小企業に最適な退職金制度・企業年金制度は企業型確定拠出年金です。ここでは、その理由を解説します。

事業主が支払う掛け金が一定

外貨建ての養老保険には、為替変動による保険料増加のリスクがあります。中小企業にとって掛け金負担が変動するのは望ましくなく、財務に悪影響を及ぼします。企業型DCを導入すれば、一定の掛け金拠出で安定的な経営が可能です。

インフレリスクに対応可能

企業型DCは、現状の企業年金および退職金制度でインフレリスクに対応できる唯一の制度です。老後資金準備では、インフレリスクへの対応が欠かせません。しかし、超低金利の現状において中退共や円建て養老保険では、資産を増やせません。 現在の日本では水道光熱費や食料品の価格が上昇し、国民の手元資金がどんどん減っています。企業型DCでは自分で運用することで、年金資産をインフレリスクから守れます。

役員も加入できる

中退共は従業員しか加入できませんが、企業型DCは役員も加入できます。社長1人の小規模な会社でも導入し、掛け金を損金計上しながら老後資金準備ができるのです。

退職金制度の導入は専門家に相談しましょう

福利厚生プランでの外貨建て養老保険は、円建て養老保険の欠点を補う効果が期待できます。しかし、為替が円安に振れると保険料の負担が増え、会社の資金繰りに影響するおそれがあります。企業型確定拠出年金は掛け金が一定で、全額損金算入が可能です。退職金や企業年金制度は持続可能なことも大切です。 導入にあたっては、福利厚生に詳しい専門家に相談することが解決の近道です。群馬FP事務所では制度に精通した専門家と連携して、中小企業の企業型DC導入のサポートを行っています。詳しくは当事務所の「確定拠出年金(401K)導入コンサルティング」をご覧ください。 以下の関連記事もご一読ください。
この記事を書いた人
松田聡子

【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種


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