変額保険の福利厚生プランと企業型確定拠出年金、どっちがいいの?
福利厚生プランとは、法人で養老保険を一定条件の下で加入すると保険料が半分損金算入できる制度です。半分損金のメリットはありますが、最近の運用難で受け取る保険金が払い込んだ保険料を下回る「元本割れ」が多くなりました。そこで登場したのが、変額保険による福利厚生プランです。 この記事では変額保険の福利厚生プランの基本と、企業型確定拠出年金を比較します。退職金制度の導入を検討中の中小企業経営者は参考にしてください。

福利厚生プランとは?

最初に養老保険の福利厚生プランについて、解説します。

養老保険の保険料が半分損金算入可能

養老保険とは一定の保険期間内に被保険者が亡くなると死亡保険金が、保険期間満了時に被保険者が生存していると満期保険金が支払われる生命保険です。通常、法人が養老保険を契約すると、保険料は全額資産計上しなければなりません。 しかし、一定の条件を満たすと保険料の2分の1の損金算入が認められます。このような法人の養老保険の活用方法を福利厚生プラン(ハーフタックスプラン)といいます。

保険料の半分損金が加入になるには?

養老保険が福利厚生プランとして認められるためには、次のような条件を満たす必要があります。

養老保険の契約形態

福利厚生プランの養老保険は以下のような契約形態で加入します。
契約者 法人
被保険者 役員または従業員
死亡保険金受取人 被保険者の遺族
満期保険金受取人 法人

全員加入が条件

福利厚生プランでは、原則として従業員全員を加入させなくてはなりません。役員の加入は任意です。しかし、特定の従業員だけの加入は、認められません。

規程の整備が必要

福利厚生プランを導入する場合、「福利厚生規程」「退職金規程」のような規程を整備する必要があります。税務調査などで、保険契約が福利厚生プランであることの証明となります。 また、死亡保険金が保険会社から遺族に支払われるため、遺族が会社に別途退職金を請求する可能性があります。規程に保険金が会社からの退職金である旨を明示しておくと、トラブル防止になり安心です。

福利厚生プランの致命的な問題点

法人保険の税制改正で、返戻率の高い保険の保険料の損金算入に制限がかかるようになりました。そこで、条件はあるものの、半分損金算入が可能な福利厚生プランが注目されるようになったのです。 しかし、昨今の運用難で養老保険の返戻率は悪化の一途をたどり、満期保険金でさえ払い込んだ保険料を下回るケースが多くなりました。半分損金とはいえ、元本割れが目に見えている養老保険を退職金制度にするのは、いかがなものでしょうか。

解決策としての変額保険

そこで、注目されるのが変額保険です。変額保険とは払い込んだ保険料で投資信託を運用し、運用の成果によって保険金や解約返戻金が変動する保険です。変額保険の中でも保険期間が一定の有期型は、法人の福利厚生プランでの利用ができます。

変額保険の福利厚生プランのデメリット・注意点

変額保険は運用次第で満期保険金を大きく増やせる可能性がありますが、元本保証ではありません。そのため、大きく損をしてしまう可能性もあります。後述する確定拠出年金の運用商品に比べて、選択肢が少なめな点もデメリットです。 また、変額保険にかぎらず養老保険は保険商品なので、健康状態によっては加入できない場合があります。被保険者の年齢によっては保険料が高額になり、満期保険金の返戻率も低くなります。

企業型確定拠出年金(DC)とは?

企業型確定拠出年金(DC)は、変額保険と同様に運用によって将来の受取額が決まる企業年金です。

事業主が掛金を拠出して従業員が運用する企業年金

企業型確定拠出年金(DC)とは会社が拠出した掛け金を従業員が自分で運用し、その成果によって年金資産が決まる企業年金です。

企業型確定拠出年金のメリット

企業型DCには、次のようなメリットがあります。

掛金は全額損金算入可能

事業主が支払った掛金は、全額損金に算入できます。福利厚生プランでは保険料の2分の1の損金算入しかできません。

柔軟な制度設計ができる

確定拠出年金は公的年金の上乗せのために、従業員が掛金を負担するマッチング拠出なども選べます。選択制確定拠出年金では、社会保険料削減効果も期待できます。

企業型確定拠出年金のデメリット

企業型DCには、デメリットや注意点もあります。

原則として60歳まで引き出し不可

確定拠出年金は老後資金準備のために税制優遇が受けられるので、60歳までの引き出しはできません。

元本保証でない

確定拠出年金の運用成果は加入者が負うことになっています。運用に失敗しても、元本の保証などはありません。ただし、運用商品には定期預金などの元本確保型が必ず用意されています。そのため、どうしてもリスクを取りたくない加入者は、元本確保型を選択できます。

運営の事務や費用の負担あり

企業型DCを導入するには、事業主に事務や費用について若干の負担があります。これらの負担は窓口となる運営管理機関(金融機関)によってさまざまです。中小企業でも採用しやすい、負担の少ない運営管理機関を選びましょう。

従業員への投資教育が必要

企業型DCでは、従業員への継続的な投資教育が努力義務とされています。 導入の際に、運営管理機関からどのような投資教育のサポートが受けられるかの確認が必要です。

変額保険の福利厚生プランと企業型確定拠出年金の比較

ここでは、変額保険の福利厚生プラント企業型DCを比較してみましょう。
  変額保険の福利厚生プラン 企業型確定拠出年金
掛金の税務上の取扱 1/2:資産計上 1/2:損金算入 全額損金算入
運用する人 契約者(法人) 加入者(従業員)
運用商品 投資信託 投資信託 定期預金 保険商品
死亡保障 あり なし
運営の容易さ 事務負担はあるが費用負担はない 事務負担・費用負担あり

社長一人でも加入できるか?

企業型DC社長一人の会社でも導入でき、後に従業員を雇用したら加入させることができます。一方、福利厚生プランは役員も加入できますが、役員だけの会社では導入できません。

運営の容易さ

福利厚生プランは、導入時に従業員全員の加入手続きが必要です。契約時には必ず従業員が手続きに同席しなければなりません。また、従業員の入社や退社のたびに契約や解約の手続きが必要になります。保険の加入状況が従業員の実態と合わないと税務調査で問題になる可能性もあり、注意が必要です。福利厚生プランでは、保険料以外の会社の費用負担はありません。 企業型DCは導入時の手続きや導入後の事務が若干必要です。従業員の入社や退社に伴う手続きが必要なのは、福利厚生プランと同様です。企業型DCでは、運営管理機関に支払う手数料などがかかります。できるだけ費用負担の少ない運営管理機関を選びましょう。

同じ運用利回りの戻り金は?

ここでは、変額保険と確定拠出年金で、同じ掛金を同じ利回りで運用した場合の運用効率を比較します。

変額保険の場合

30歳男性/保険期間・保険料払込期間:35/保険金額:1,000万円/月払保険料:19,130/運用利回り2.75% この場合の35年後の戻りは満期保険金の1,000万円となります。

企業型確定拠出年金の場合

企業型確定拠出年金で上記と同様の運用をした場合を試算してみます。 毎月19,000円を35年間2.7%で運用すると、約1,330万円になります。

差額は保険の費用

上記の結果から、確定拠出年金の受取額が約330万円も多くなります。この原因は、変額保険の保険料のうち保険の費用の割合が大きいからです。単純計算で330万円は死亡保険金1,000万円の保険料と考えられます。 そこで、同じ保険期間の掛け捨て保険の保険料と比較してみます。 ある保険会社の定期保険(掛け捨て)の保険料 30歳男性/保険期間・保険料払込期間:35/保険金額:1,000万円/月払保険料:2,146円 この保険に35年間加入した場合の合計保険料は、90万1,320円となります。 上記の差額約330万円よりも、約240万円も少なくなります。変額保険は投資信託にかなり余分な保険料が乗っていることがわかりました。

中小企業の退職金制度としてどちらを選ぶべきか?

以上のことを踏まえ、変額保険の福利厚生プランと企業型DCのどちらを中小企業の退職金制度として選ぶべきかを考えます。

結論は企業型確定拠出年金

言うまでもなく、変額保険の福利厚生プランを導入するより、企業型DCが有利です。

他にも退職金制度はあるが

中小企業の退職金制度には福利厚生プラン、企業型DC以外にも中小企業退職金共済(中退共)などがあります。どの制度も一長一短で、どの企業にも合う制度は残念ながらほとんどありません。 その中でも企業型DCは社長一人の会社でも導入でき、節税だけでなく制度設計によっては社会保険料削減にもつながります。制度が複雑でわかりにくく、敬遠する経営者もいますが、一度は検討してみることをおすすめします。 以下の関連記事もご一読ください。

まとめ【企業型確定拠出年金は中小企業の退職金制度としておすすめ】

変額保険の福利厚生プランは半分損金算入ができるため、保険を使った節税としては魅力があるかもしれません。しかし、資産を増やそうとしても保険の費用が足かせになり、なかなか戻り金が支払った保険料を上回らないことが多いのです。 その点、企業型DCなら掛金は全額損金算入でき、保険の費用もありません。今後、中小企業が取り入れたい退職金制度といえます。 導入にあたっては、福利厚生に詳しい専門家に相談することが解決の近道です。群馬FP事務所では制度に精通した専門家と連携して、中小企業の企業型DC導入のサポートを行っています。詳しくは当事務所の「確定拠出年金(401K)導入コンサルティング」をご覧ください。
この記事を書いた人
松田聡子

【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種


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