小規模企業共済と併用するならiDeCoと企業型確定拠出型年金、どっちが有利?
法人を設立して事業が軌道に乗ると、退職金などが気になる経営者は少なくありません。小規模企業共済は、個人事業主と小規模な会社の役員が個人で加入する退職金制度です。個人で掛金を拠出する制度には、iDeCo(個人型確定拠出年金)もあります。 この記事では小規模企業共済とiDeCoを比較しどちらが有利か、また最も有利な中小企業経営者の退職金準備を解説します。

小規模企業共済とは?

小規模企業共済とは独立行政法人中小企業基盤整備機構が提供する、個人事業主や小規模法人の役員が退職金を準備する制度です。加入者が退職もしくは事業を廃止した場合などに、それまでに払い込んだ掛金に応じた共済金を受け取れます。

小規模企業共済の加入資格

小規模企業共済の加入資格は、以下のとおりです。
  • 常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業・士業法人では5人以下)の個人事業主および会社の役員、士業法人の社員
  • 上記の個人事業主に属する共同経営者(個人事業主1人につき2人)
  • 一定規模以下の企業組合・協業組合および農業組合法人の役員
なお、小規模企業共済には加入年齢の制限はありません。

加入資格を満たさなくなっても継続できる

小規模企業共済には上記の加入資格がありますが、加入後に加入資格を満たさなくなっても脱退する必要はありません。たとえば、加入当初は20人以下だった従業員が、加入後に20人を超えた場でも小規模企業共済を継続できるのです。 事業規模が大きくなってからでは加入したくてもできないので、小規模なうちに加入しておくのが賢明でしょう。

小規模企業共済の掛金

毎月の掛金は1,000円から7万円まで500円単位で選択でき、増額も減額もできます。掛金の払い方は月払い、半年払い、年払いから選択でき、前納も可能です。個人が拠出した掛金は、全額所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象になります。

小規模企業共済の共済金等の種類

小規模企業共済で受け取る共済金等は、以下の4種類です。
共済金等の種類 共済事由
共済金A
  • 個人事業を廃業、事業主の死亡、配偶者または子に事業の全部譲渡
  • 法人の解散
共済金B
  • 老齢給付(65歳以上で180カ月以上掛金を払い込んだ場合)
  • 病気、怪我の理由により、または65歳以上で法人役員を退任
  • 法人役員などの共済契約者が死亡
準共済金
  • 個人事業を法人成りした結果、加入資格がなくなったため、解約
  •  法人の解散、病気、怪我以外の理由により、または65歳未満で役員を退任
解約手当金
  • 任意解約
  • 機構解約(掛金を12カ月以上滞納した場合)
  • 共同経営者の任意退任による解約
  • 個人事業を法人成りした結果、加入資格はなくならなかったが、解約をした場合

実際にいくら受け取れる?

現在30歳の人で課税所得金額800万円の人が、毎月7万円ずつ65歳まで加入した場合に受け取れる共済金額は以下のとおりです。
  • 掛金合計額:2,947万円
  • 共済金A・共済金B:3,545万5,000円
なお、共済金は分割での受取も可能です。 中小企業経営者が65歳以上で退職する場合は共済金Bに該当するため、支払った掛金を大きく上回る共済金を受け取れることがわかります。

節税効果は?

掛金拠出による節税効果は以下のようになります(住民税均等割額は5,000円で試算)。 年間節税額:28万1,200
  所得税 住民税 合計
加入前 1229,200 805,000 2034,200
加入後 1032,000 721,000 1753,000
節税効果は課税所得金額が多いほど大きくなります。小規模企業共済の予定利率は高くありませんが、所得控除のメリットは大きな魅力です。

小規模企業共済って大丈夫なの?

小規模企業共済の破綻を懸念する声も聞かれますが、破綻する可能性は低いといえます。2022年(令和4年)時点の予定利率は1.0%です。これに対し、令和2年度の過去10年の平均運用利回り2.61%となっています。 また、令和2n年度末の利益剰余金は5,657億円と共済金支払いに十分対応可能です。したがって、小規模企業共済は安心して加入できる状況と考えられます。

小規模企業共済のメリット

小規模企業共済には、個人事業主にも中小企業経営者にも大きなメリットがあります。

掛金が全額所得控除の対象

小規模企業共済に加入すると、掛金の全額を小規模企業共済等掛金控除として所得から控除できます。そのため、課税所得が抑えられ、支払う税金が少なくなります。また、1年以内の前納掛金も同様に控除可能です。 法人の役員が小規模企業共済に加入すると、法人からの退職金に加えて小規模企業共済の共済金が退職金となります。個人でも節税しながら退職金を準備できるというわけです。

共済金の受取時にも所得控除あり

小規模企業共済の共済金は一括で受け取るか、分割で受け取るか選択可能です。一括受取は退職所得となり、退職所得控除が受けられます。分割で受け取る場合は雑所得となり、公的年金等控除の対象となります。どちらの場合も事業所得や給与所得に比べて、税負担が軽くなるのです。

契約者貸付けが利用可能

小規模企業共済では、契約者貸付制度を利用できます。契約者貸付制度とは、払込掛金を限度に低金利でお金を借りられる仕組みです。一時的に資金繰りが苦しくなったときなどに契約者貸付けが利用できるのは、経営上安心です。

支払った掛金以上の共済金を受け取れる

小規模企業共済の共済金Aと共済金Bは、36カ月以上加入すると掛金総額を上回る共済金を受け取れます。加入期間に応じて共済金の返戻率が高くなる仕組みです。

小規模企業共済のデメリット

小規模企業共済の加入を検討するにあたり、以下のようなデメリットも押さえておきましょう。

短期で解約すると損をする

小規模企業共済の掛金納付月数が240カ月(20年)に満たないうち解約すると、解約手当金は掛金合計額を下回ります。さらに、最初の1年目に解約する場合は、解約手当金はゼロになることに注意が必要です。 小規模企業共済の最低の掛金は1,000円なので掛金の支払いが苦しいときは減額で対応し、解約を避けましょう。

インフレに対応できない

2022年(令和4年)現在の小規模企業共済の予定利率は1.0%です。共済金受取までに1.0%以上のインフレが続くと、お金の価値が下がっている可能性があります。 最近の日本は急激な円安や原油価格の上昇で、インフレ圧力が高まっています。できれば、インフレに対応できる制度と組み合わせて、将来の資産の目減りに備えるとよいでしょう。

iDeCo(個人型確定拠出年金)とは?

iDeCo(個人型確定拠出年金)とは、加入者が掛金を支払い、自分で運用し、60歳以降に受け取る公的年金の上乗せ制度です。

iDeCoの掛金

2017年(平成29年)の制度改正で、iDeCoはほぼすべての20歳以上の日本国民が加入できるようになりました。iDeCoの月額掛金には、加入者属性ごとに上限があります。
自営業者、農業者など 6万8,000円
勤務先に企業年金のない会社員 2万3,000円
勤務先に企業型確定拠出年金のある会社員 2万円
勤務先に確定給付型年金のある会社員、公務員 1万2,000円
専業主婦(夫) 2万3,000円

iDeCoの運用商品

iDeCoは金融機関ごとに用意された運用商品を、加入者が選んで運用します。運用商品の中には、必ず定期預金や保険などの元本確保型の商品があります。元本確保型商品以外は、投資信託です。

iDeCoのメリット

iDeCoには以下のような税制メリットがあります

掛金が全額所得控除

iDeCoの掛金も中小企業退職金共済と同様に、全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。所得の高い人ほど大きな節税メリットを享受できます。

運用中の利益に課税されない

iDeCoでは運用中の利益(預金利息や投資信託の売却益)に対して課税されません。一般の預金や投資で得た利益には20.315%の税金がかかりますが、iDeCoならかからないのです。

受取時も所得控除が受けられる

iDeCoの資産の受取時も小規模企業共済と同様に、一括で受け取るか、分割で受け取るか選択可能です。一括受取は退職所得扱いで、退職所得控除が受けられます。分割で受け取る場合は雑所得扱いで、公的年金等控除の対象となります。

インフレリスクに対応できる

iDeCoの運用は自己責任ですが、リスクを取って投資信託で運用するとインフレリスクに対応できます。投資信託の投資対象には株式や不動産などインフレに強い資産があり、それらに間接的に投資できるからです。 遠い将来のための退職金には、インフレヘッジが必要です。中小企業経営者が利用できる退職金準備の制度で、インフレ対応ができるのはiDeCoや企業型確定拠出年金しかありません。

iDeCoのデメリット

iDeCoは税制優遇のメリットがありますが、デメリットもあります。

60歳まで引き出しできない

iDeCoは公的年金の上乗せのために手厚い税制優遇が受けられる反面、原則として60歳まで資産の引き出しができません。また、一度加入すると脱退はできないため、途中で掛金の支払いが苦しいときには減額で対応します。 しかし、いかなる状況でも老後資金が守られるので、致命的なデメリットではないとも考えられます。

元本割れの可能性がある

iDeCo加入者が自分で運用し、その成果は加入者自身が負わなければなりません。運用が成功すれば大きな資産形成が期待できますが、失敗して損失を被る可能性もあります。失敗を恐れて元本確保型商品で運用すれば、インフレによって資産が目減りするでしょう。 長期・分散・積立の最低限の運用の勉強をすれば、大きな失敗の回避が期待できます。

年齢制限がある

小規模企業共済には年齢制限がありませんが、iDeCoに加入できるのは原則として60歳までです。定年のない中小企業経営者にとって、iDeCoの年齢制限はデメリットです。

手数料がかかる

小規模企業共済の加入者には、掛金の支払い以外の経済的負担はありません。しかし、iDeCoには国民年金基金連合会への手数料などの負担があり、金融機関によっては口座管理手数料がかかる場合があります。なるべくコストのかからない金融機関を選びましょう。

法人オーナーは掛けられる金額が少ない

iDeCoの個人事業主の掛金の上限は68,000円ですが、一般的な中小企業の経営者の掛金上限は23,000です。小規模企業共済では7万円まで掛けられるのに比べ、非常に少ない金額です。掛金額が少なければ準備できる退職金も少なくなり、節税メリットも小さくなります。

iDeCoの制度改正

2022年(令和4年)には、いくつかのiDeCoの制度改正があります。
  • 受給開始年齢の延長: 2022年(令和4年)4月1日
  • iDeCoに加入できる年齢の拡大:2022年(令和4年)5月1日
  • 企業型確定拠出年金とiDeCoの併用の条件緩和:2022年(令和4年)10月1日
このうち中小企業経営者に影響があるのが、iDeCoの加入年齢の拡大です。国民年金の第2号被保険者は、65歳まで加入できるようになりました。

小規模企業共済とiDeCoを比較

中小企業経営者が個人で退職金を準備するなら、小規模企業共済とiDeCoのどちらがいいのでしょうか。

中小企業経営者はどちらを選べばいいか?

どちらかの制度を選ぶとすると、選択肢としては小規模企業共済が有利と考えられます。どちらの制度も掛金が全額所得控除になる点が大きなメリットですが、小規模企業共済の限度額は7万円とiDeCoより大きいからです。 また、iDeCoの加入年齢は延長されたとはいえ65歳までですが、小規模企業共済に年齢制限はありません。定年のない中小企業経営者が現役でいる限り、節税しながら退職金準備ができるのが小規模企業共済なのです。

小規模企業共済とiDeCoは併用可能

とはいえ、小規模企業共済とiDeCoは併用可能です。しかも、併用しても限度額は変わりません。そのため、小規模企業共済とiDeCoを併用すると、双方のメリットが最大限享受できます。 ただし、少しでも多く税制優遇を受けながら退職金を準備したい場合、iDeCoより企業型確定拠出年金の利用が有利です。

しっかり退職金を準備したいなら企業型確定拠出年金がおすすめ

企業型確定拠出年金は個人事業主には利用できない、公的年金の上乗せ制度です。中小企業経営者が小規模企業共済と併用可能で、非常に大きなメリットがあります。

企業型確定拠出年金とは?

企業型確定拠出年金(DC)は事業主が掛金を拠出し、従業員が自分で運用をした結果に応じて将来の年金給付額が決まる仕組みの企業年金です。iDeCoの掛金は個人が支払いますが、DCの掛金は会社が支払います。

企業型確定拠出年金のメリット

企業型確定拠出年金にはさまざまなメリットがあります。

事業主掛金は全額損金算入可能

企業型DC事業主が負担する掛金は、全額損金算入できます。法人税などを節税しながら、年金の上乗せの準備が可能です。

70歳まで加入できる

企業型DCiDeCoと違い、厚生年金被保険者ならば70歳まで加入できます。経営者が現役ならば、70歳まではDCの運用を続けて老後資産を作れるのです。中小企業経営者は65歳で退職しないケースも多いため、70歳まで加入できるのは大きなメリットです。

掛金上限が高い

一般的な中小企業経営者のiDeCoの掛金上限は23,000円ですが、企業型DCなら55,000です。老後資金を少しでも多く準備したいなら、iDeCoより企業型DCのほうが有利です。

役員も従業員も加入できる

企業型DCは社長1人会社から導入でき、役員も従業員も加入できます。

柔軟な制度設計が可能

企業型DCは加入者が掛金を支払うマッチング拠出や、任意加入の選択制DCなどさまざまな制度設計の方法があります。以前は大企業しか導入できなかった企業型DCも、会社の状況に応じた制度で導入できます。

企業型確定拠出年金のデメリット

企業型DCのデメリットも確認しておきましょう。

制度運営のコストがかかる

企業型DCには、運営管理機関等への手数料などの費用負担と事務負担が発生します。企業型DCを導入すると、気軽に脱退できません。運営管理機関によってもコストは異なるため、慎重に比較検討しましょう。

従業員への投資教育が必要

企業型DCでは、従業員への継続的に投資教育が努力義務とされています。投資経験のない従業員に、いきなり自己責任の運用を求めても難しいものです。制度のメリットを生かし、多くの従業員に利用してもらうには、定期的な従業員への教育が欠かせません。 「最低限の義務を果たせばいい」と考えるのでなく、従業員のためにベストな投資教育を提供するように努力してください。運営管理機関などを通じて講師を招いたり、投資教育のe-ラーニングを提供したりするのが一般的です。

個人で小規模企業共済、法人で企業型確定拠出年金

以上の内容から、中小企業経営者の退職金には小規模企業共済と企業型DCの併用に大きなメリットがあるという結論に至ります。 個人では小規模企業共済に加入し、法人では企業型DCに加入することで、法人・個人ともに税制メリットを享受しながら老後資金準備が可能となるからです。 また、拠出できる掛金額も大きいので、まとまった資産形成が期待できます。小規模企業共済と併用するなら、iDeCoより企業型DCのほうが有利です。

まとめ

小規模企業共済は、個人事業主と小規模な法人経営者にとって有利な退職金準備手段です。法人オーナーであれば企業型DCとの併用で節税メリットを生かしながら、多くの老後資金を準備できます。事業が安定して将来のことを考えたい中小企業経営者にとって有力な選択肢となります。 法人の退職金制度の整備や経営者の資産形成は、専門家に相談するとよいでしょう。群馬FP事務所では制度に精通した専門家と連携して、中小企業の企業型DC導入のサポートを行っています。詳しくは当事務所の「確定拠出年金(401K)導入コンサルティング」をご覧ください。 以下の関連記事もご一読ください。
この記事を書いた人
松田聡子

【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種


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