出張の多いあなたの手取りを増やす「旅費規程」の活用
システムエンジニア時代の私の生活は出張一色。 火曜日に出発して金曜日に帰ってきて、明けて月曜日は旅費精算です。 会社は総務以外、社長も社員もウィークデーはみな出払っていました。 こんな生活では結婚もできないのではないかと悩んだものです。 実際、既婚者の中には離婚する人も多かったですし。 少し話はそれましたが、たいていの中小企業は旅費規程を作っておらず、旅費に関しては実費精算しています。 私の会社もそうでした。 旅費規程とは、出張時の交通費、宿泊費、出張手当(日当)の取り扱いを定めた社内規程です。 出張に対して実費以上の「日当」を払うという発想がそもそもないですね。 ところが、旅費規程を作ることは法人と個人に多くの経済メリットをもたらします。

出張手当で節税する方法とは?

一般的な節税というと4年落ちの中古車を買う、備品のまとめ買い、生命保険に入るなど、手元の資金を減らして税額を減らすことがほとんどです。 しかし旅費規程を使うことで、出張手当(日当)に使った資金を一切減らすことなく、経営者個人の口座に移してゆくことが可能となります。 この方法のメリットは次の3つです。
  1. 法人にとって節税になる
  2. 個人の税金・社会保険料が減る
  3. 旅費精算が簡単になる
ですから、出張の多い経営者なら必見なのです。

法人にとってのメリットは?

旅費規程を作成することで、出張の都度、「旅費」を支払うことが可能になります。 ここでいう「旅費」とは「交通費」、「宿泊費」、「出張手当」のことをいいます。 法人にとって「旅費」は経費になります。 旅費は実費精算を求められていないため、旅費規程で決められた金額を支給することが可能です。 その目的は旅費精算の事務負担軽減のためと言われています。 たいていの場合、実費よりも高い金額が支給されることになります。 なぜなら旅費規程上は正規の運賃や宿泊費で規定するのに対し、実際は割引切符や安いビジネスホテルを利用することができるからです。 超過した分だけ節税につながります。 また、「旅費」は消費税の課税仕入れの対象になりますので、消費税の節税にもつながります。
所得税法(非課税所得) 第九条 次に掲げる所得については、所得税を課さない。 四 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
例えばあなたが年間100日出張するとして、旅費規程上の出張日当が1日1万円だとしましょう。 すると、100日×1万円=「100万円」が「旅費」になります。 この「100万円」は会社の経費ですから、法人税額の軽減につながります。 そのうえ、「旅費」は課税仕入れの対象ですから消費税課税事業者は「100万円×8%=8万円」の消費税節税にもつながるわけです。

個人にとってのメリットは?

一方、個人にとっては「旅費」という臨時収入を非課税で受け取ることができます。 さらに、社会保険料もかかりません。 つまり、ここで受け取った「旅費」はストレートに本人の手取り増加になるわけです。 例えば、上記の旅費100万円のケースであれば、法人が支払った100万円を個人が100%受け取ることができるのです。 さらに、「旅費」に関しては実費精算は求められませんので、金券ショップでの格安チケット購入などで実費との「差額」をポケットマネーとすることも可能です。 出張で移動をするためには交通費がかかります。 社長ならば新幹線はグリーン車、飛行機はファーストクラス、こういったことをあらかじめ旅費規程で決めておけば必要経費として問題なく認められます。 宿泊費についても同様です。 旅費規程に定めておけば、常識の範囲内の金額であれば必要経費として認められます。 社長の宿泊費を1万5千円と決めて、実際には8千円くらいのビジネスホテルに宿泊し、7千円のポケットマネーをを作ることもできるわけです。 上記の条件でさらに社長の1日当たりの日当が7,000円だとします。 その社長が火曜日から金曜日まで新潟から東京へ3泊4日の出張をするとします。 正規料金の場合、 新潟-東京間 新幹線グリーン車往復料金 = 27,520円 宿泊費 = 45,000円(3泊分) 合 計 = 72,520円 これに対し、新潟-東京間3泊4日のビジネスパック(往復新幹線代とホテル代込)45,000円を利用します。 その結果、ビジネスパックとの差額(72,520円-45,000円)の27,520円がポケットマネーになります。 これに加えて4日分の日当28,000円があります。 これらを合計すると、1回の出張で合計55,520円のキャッシュが受け取れるわけです。 私がいた会社は年の半分以上は出張でしたから仮にこんな出張が年に20回くらいあったら、合計1,110,400円ものキャッシュを法人から個人に移せることになります。 最初から出張の日数の見込みが立つケースなら「旅費」を想定して役員報酬を下げれば、合法的に社長の手取りを増やすことができますよね。 経営に浮き沈みはつきものですから、社長がいざというときのための資産を持つことがプラスに働くことも多いと思います。

税務署対策もぬかりなく

このように法人にも個人にもメリット大の旅費規定ですが、旅費は昔から裏金の温床でもありました。 ゆえに、税務調査で突っ込まれやすいのです。 ですから、カラ出張なんてもってのほか。 旅費規程を作ったらそれだけで安心しないで証拠となる書類を残すようにしてください。 証拠となる書類とは、出張のスケジュール表(月間でも週間でも)、出張時の打ち合わせ記録、旅費の領収書などです。 旅費の領収書は実際にかかった経費と一致していなくても構わないのですが、出張の証拠として保存しておいたほうがいいです。 それから、妥当な旅費の範囲ですが、次のような通達があります。
所得税法(非課税とされる旅費の範囲) 9-3 法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。(平23課個2-33、課法9-9、課審4-46改正) (1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。 (2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
要約すると(1)社内の役職間のバランスがとれていて、(2)同規模の会社と比べて高すぎないこと、と言っていますね。 当然、従業員さんにも有効活用できますので、これを機会に旅費規程を導入して役員も社員も手取りを増やしてください。

ファイナンシャルプランナー 松田 聡子
この記事を書いた人
松田聡子

【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種


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