最新判例から考える「役員退職金の適正額」とは?
退職所得は支払う会社側からみると全額損金算入ができるため、効果的な節税手段のひとつと考えられますよね。 だからといって無制限に支払うことが認められているわけでなく、不相当に高額な部分については損金算入が否認されることは広く知られています。 では、いったいどの程度を不相当に高額というのでしょうか? 実は、過大な退職金に関する具体的な基準は法令で定められているわけではありません。 最近、死亡退職した役員に支払われた退職給与について、税務署が不相当に高額な部分の金額を損金不算入とする更正処分等をしたことに対して、納税者側(原告)が処分の取消しを求めた事案の判決が出ましたのでシェアしたいと思います。

役員退職金の算定方法にはどんなやり方があるのか?

役員退職金の適正額を算定する際に、実務上一般的になっている算定方法には以下のようなものがあります。
  1. 平均功績倍率法:役員退職金額=平均功績倍率×最終報酬月額 × 勤続(在任)年数 ※同業類似法人(=同種の事業で事業規模が類似する法人)の役員退職金の支給事例における功績倍率(同業類似法人の役員退職金額を、最終報酬月額と勤続(在任)年数を乗じた金額で割って求めた倍率)の平均値

  2. 最高功績倍率法:平均功績倍率に代わり最高功績倍率を用いて上記算式で算定する方法 ※比較対象として抽出された法人の功績倍率の最高値

  3. 1年当たり平均額法:役員退職金額= 類似法人の役員退職給与の1年当たり平均額 × 勤続(在任)年数

一審の判決

平成29年10月13日の東京地方裁判所の判決によれば、国側は「平均功績倍率法」を最も合理的であると主張し、裁判所もその主張を支持する判断を示しています。 納税者にとっては最高功績倍率法が有利ですし、そのことから一般に「3倍程度」という認識があるようです。 ですが、3倍で計算すれば大丈夫、というわけではないことになります。 ただ、東京地方裁判所は最高功績倍率法イコール不当との解釈ではなく、平均功績倍率の1.5倍相当に基づいて算定した金額までは退職金として損金算入を認める判断を示しました。

二審の判決

これに対し、平成30年4月25日の東京高等裁判所控訴審判決では「平均功績倍率の1.5倍までの倍率で算定した金額までは“退職金として相当と認められる金額”を超えない」という判断は取り消されました。

役員退職金を多く受け取るために

判決ではこの他、功労加算の取り扱いにも触れられました。 例えば創業者が勇退する場合などに役員退職金に功労加算の名目で上乗せをすることは基本的には認められないという見解が示されました。 以上の判決内容は、今後の役員退職金の決定の仕方にも影響があるので、参考にしてください。 廃止が見込まれる在職老齢年金なども加味し、優待間近の役員の報酬を決定することがますます重要になってくるはずです。

ファイナンシャルプランナー 松田 聡子
この記事を書いた人
松田聡子

【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種


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