電通が、2021年1月(令和3年1月)から社員全体の3%に相当する約230人を「個人事業主」に切り替えるという報道がありました。
これに対し、ネット上では「業績悪化による偽装リストラではないか」という声があがっています。
今回の電通のような社員を請負契約などに変更する手法は、以前から多くの企業で人件費削減などのために採用されていたものです。
コロナ渦で多くの企業が業績ダウンに苦しむ中、コスト削減にもつながるこのような手法を検討する経営者も多いのではないでしょうか。
この記事では、社員を請負契約に変更する場合のメリットと注意点についてお伝えします。
※この記事は2016年10月(平成28年10月)に投稿したものを加筆修正しました。
雇用と請負はどう違うか
請負とは仕事の完成が目的
請負契約とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約束するような契約をいいます。
例えば、大工さんに家を建ててもらうような場合ですね。
請負契約では、労務の供給そのものが目的ではなく、仕事の完成が目的である点に最大の特徴があります。
雇用契約は使用者に従属し役務を提供
雇用契約は請負契約と同様、当事者の役務の利用を目的とする契約ですが、労働に従事することが契約の目的・内容です。
あることに対して、請負契約では「仕事の完成」が目的となっている点において異なります。
また、雇用契約は、使用者に従属し役務の提供が行われることに対して、請負契約は発注者と請負者は独立した関係で役務の提供が行われる点において異なります。
請負契約のメリットとは?
人件費が削減できる
請負契約の最大のメリットはなんといっても
社会保険料の負担義務がなくなる。
これでしょう。
従業員の人数が多い会社の場合、請負への切り替えは劇的なコスト削減効果があります。
会社の存続が危うい時などには即効性が期待できる方法ではあります。
労働法の適用を受けない
さらに、
・労働基準法を始めとする労働関係法令が適用されないため、割増賃金の支払い、年次有給休暇の付与、解雇予告の手続き、健康診断の実施、最低賃金の適用等の義務がない。
・雇用関係ではないため、話し合いの上いつでも契約を解除できる。
など会社にとってコスト削減につながることばかりの「いいことづくめ」ように思えます。
社員を請負契約に変える会社が増えるのもうなずけるところです。
請負契約の注意点 その1
偽装雇用と見なされる場合も
ただし、会社に都合よく判断して社員を請負契約にしたとしても実態が雇用契約と変わらければ請負人は実質的には労働者であると判断されてしまいます。
つまり、その請負契約が社会保険料や労働基準法逃れの脱法行為とみなされてしまうわけです。
この場合、労基法違反を問われたり保険料を追徴されたりする可能性があります。
雇用と請負を区別する基準
雇用か請負かを判断する基準としては
- 相手方に仕事の依頼、業務従事の指示に対する諾否の自由があるか
- 会社から相手方に業務の遂行方法及び内容に指揮命令が及んでいないか
- 契約で約した仕事以外に従事することはないか
- 労働時間管理など拘束性がないか
- 本人に代わって他の者が業務を行うことを認めているか
- 報酬の計算単価が時間給や日給といった時間を元にしていないか
- 本人が所有する機械・器具の使用を認めているか
雇用と請負を区別する基準の判例
また、判例では
- 採用・委託などの選考過程が正規従業員とほぼ同じであること
- 報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること
- 労働保険の適用対象としていること
- 就業規則の遵守を求めていること
- 退職金制度など福利厚生制度を適用していること
これらに多く当てはまるものがあると請負契約であることを否認される可能性が高くなります。
請負契約を選択するなら
私見では、実際に請負契約を導入している企業はかなりグレーゾーンのところが多いように思います。
もともと社会保険料削減などが目的の場合がほとんどでしょうから、そうなる可能性も高いのですね。
しかも、判例があるということは実際にトラブルも起きているということだと思います。
慎重な判断が必要ですね。
請負契約の注意点 その2
適法に請負契約への切り替えができた場合でも、注意しなくてはならないことがあります。
請負に変更される従業員のデメリット
まず第一は、会社にとってはコスト削減になりますが、元従業員にとっては不利益ばかりです。
給与所得控除がなくなるので税の負担は増えるし、国民健康保険の保険料も払わなくてはなりません。
国民年金だけになるので将来の不安も感じるでしょう。
筆者がFP相談で知った請負の人のお悩み
個人のFP相談を受けていると会社員だった人が請負契約に変わったケースに遭遇することが多くなりました。
- ストレートに請負契約になったので節税する方法を相談される方。
- 住宅ローンを利用したいけれど請負だと借りられないのかというご相談。
請負契約に合意してもらえるか
また、社員から請負契約になる際には退職してもらわなくてはならないので、納得してもらえるかがカギになります。
請負契約になっても仕事の質を落とすことなく働いてもらわなくてはなりません。
元従業員の気持ちや負担増に配慮することも必要です。
合意できなければ解雇?
もし交渉の結果、合意に至らない場合、その従業員を解雇できるのでしょうか?
事業主が従業員を解雇する場合、正当な理由がなければ解雇をすることはできません。
きちんと合意できるように条件などを考えておくほうがいいでしょう。
任意労災に加入させる
第二に労災の問題です。
建設業などを除いて一人で事業をしている個人事業主は労災の特別加入ができません。
もし、業務上の事故で亡くなったり、重い後遺障害が残ったりした場合に備えて民間の任意労災への加入を促すべきでしょう。
その他想定されるデメリット
実際に従業員を請負契約に切り替えた会社では、年配の従業員ですと他の就職先も見つからないからという後ろ向きの理由で同意してくれるようです。
ただし、請負で新規の求人をすると、反響がないそうです。
団塊の世代が定年になると世の中全体の労働力が不足します。
急に需要が増えて人手も増やしたい時に働き手がいなくてビジネスチャンスを逃すなんてことに繋がりそうです。
目先のメリット以外に考えるべきこと
社会全体の賃金水準低下を招く
労使双方の合意があったからといって、労働法に守られた働き方から請負のような低い労働条件への転換を容認することは、人件費カットによる価格競争を生み、労働市場全体のダンピングに繋がります。企業が正規雇用の人材を活用せず、コストの安い外部の労働力を活用することで社会全体の賃金や労働条件の低下を招いてしまいます。
負のスパイラル
社会全体の賃金が低下するということは、消費も活性化せず、企業業績も停滞したままになります。
労働法を遵守し雇用を守る企業の業績が、人件費の問題で悪化するのは避けるべきです。
こうした問題に大企業の果たす社会的責任は大きく、目先の利益だけでなく、長期的な国力を維持することも考えてほしいです。
社員を請負契約に変更のまとめ
従業員を雇用契約から請負に変更することは、業績不振でコスト削減を希望する事業者にとって魅力的な手法です。
しかし、違法性なく採用するには厳しい条件がありますし、労働市場に与える影響も考えるべきです。
検討する場合、慎重を期していただきたいと思います。
ファイナンシャルプランナー
松田 聡子
【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種
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