社会保険料が削減されると厚生年金が減ることはそんなに不利なのか?
前の記事で選択制確定拠出年金のデメリットで社会保険料削減に伴い、厚生年金受給額、健康保険の傷病手当金、雇用保険の失業給付金など各給付が減額されると書きました。 このことにつき、傷病手当や失業給付などは将来確実に受けるわけではありません。 けれども、厚生年金はほぼ100%受給するものであり、減額されるのであればそのデメリットをしっかり検証すべきと考えます。 そこで、今回は厚生年金が減ることのデメリットについて考えてみます。

日本の年金財政の現状

平成30年版厚生労働白書によりますと、年金受給者に現在支払われている年金額は年間約48兆円です。 それに対して、厚生年金被保険者から徴収している保険料が年間約31兆円です。 徴収した保険料はそのまま年金受給者の年金給付に充当されており、保険料負担者の積立てには回っていません。 しかし、それでも支払われている年金額には17兆円足りません。 そこで、その不足分を消費税と、年金積立金の中から補填している状況です。 現在、社会保険料は労使合わせて約30%ですから、これ以上の料率アップは難しいでしょう。 そこで国はパートタイマーにも社会保険加入を義務付けるなど保険料収入を増やすことに躍起になっています。 ただし、労働人口の減少を考えると、保険料収入がこの先減ることはあっても増えないことは間違いないところです。 その一方で、高齢世代は増加の一途ですから年金給付は増える一方。 ますます年金財政は厳しさを増しています。 そうした状況を受けての、10月からのの消費税増税(10%に引き上げ)です。

諸悪の根源、賦課方式

「年金は世代間の助け合い」と言います。 勘違いされている方も多いですが、日本の年金制度は現役世代の「保険料」を高齢世代の「年金」として仕送りする「賦課方式」です。 自分が払った保険料が積み立てられているのではありません。 この制度は60歳で定年退職した人が70歳くらいで亡くなるような時代に作られたものをそのままにしてきました。 ご存じのように日本はその後、空前の少子高齢化時代を迎えました。 賦課方式を支える現役世代が減り、年金をもらう高齢者が増えれば年金財政が立ち行かなくなるのは目に見えています。

厚生年金は労使折半だからおトク?

厚生年金は「労使折半だからトクである」というのは勘違いです。 なぜなら、経営者から見た社員の社会保険料は人件費の一部です。 社会保険料を考慮して給料を決めているはずです。 ということは、本質的には社会保険料は全額本人が払っているのと同じことなのです。

厚生年金は払い損

よく、国民年金は損だという方がいますが、国民年金はよほど早く亡くならない限りは払い損にはなりません。 国民年金だけでは生活できない金額の少なさからの誤解だといえます。 ところが、厚生年金は払った分はほぼ受け取れない「払い損」です。 昔はそうではありませんでしたが、損得だけでいうと1960年生まれ以降は払い損です。 以下は厚生年金の世代別損得勘定です。
出生年 厚生年金 出生年 厚生年金
1950年 770万円 1980年 ̠▲1,700万円
1960年 ▲260万円 1990年 ̠▲2,240万円
1970年 ▲1,050万円 2000年 ̠▲2,610万円
厚生年金に40年加入の男性、専業主婦の有配偶者がいるケース。生涯収入3 億円として計算。60歳における平均余命まで生きた場合。保険料には事業主負担分も含む。保険料率再引き上げを行うと仮定。

厚生年金が減っても不利にはならない選択制確定拠出年金

一家の大黒柱がなくなった時の遺族年金、障害者になってしまった時の障害者年金のことを考慮すると厚生年金が全く不要とは思いません。 けれども、老齢年金としてはほぼ払い損であること、健康保険が掛け捨てであることを考えると、社会保険の等級は低いほうがいいと考えます。 しかも、選択制確定拠出年金なら厚生年金の減少分を補うことができますので、理にかなっています。 むしろ、選択制確定拠出年金は現在の日本の年金財政から自分の財産を守る極めて優秀なツールだといえるのではないでしょうか。 そうであれば選択制確定拠出年金への掛金拠出による厚生年金受給額のシュミレーションも必要ないと考えます。


ファイナンシャルプランナー 松田 聡子
この記事を書いた人
松田聡子

【経歴】明治大学法学部卒。金融系ソフトウェア開発、国内生保を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在はFP業務に加え、金融ライターとしても活動中。
【保有資格】日本FP協会認定CFP® DCアドバイザー 証券外務員二種


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